モンロービルに住んでいます

 


 今、アメリカのピッツバーグ(正確には、隣の市のモンロービル)に住んでいます。東海岸の長方形の横に長ーいペンシルバニア州の西の端にあります。東の端にはトムハンクスの映画で有名なフィラデルフィアがあります。これをちょっと北に行けばニューヨークです。運良く、日本学術振興会の海外特別研究員という名目の奨学金を手にすることができ、以前から行きたいと思っていたカーネギーメロン大学(CMU)の金出武雄教授のところに97年8月から留学しています。

こちらには妻と犬2匹で来ました。犬というのは、ミニチュアダックスフンド2匹で、一匹は96年の3月に横浜のペットショップから買ったものです。かの大投手から名前をもらって、すぐる、といいます。 もう一匹は 妻がパソコン通信で知り合った犬愛好家グループの一人から96年の 8月に譲りうけたもので、ふたば、といいます。 人間と違って、犬が太平洋を渡るのには、それなりの 手続きが必要でした。

まず、こちらに来る2ヶ月前に、ちょうどカリブ海の プエルトリコで開催される学会CVPR97に参加する途中でピッツバーグ
に立ち寄り、3日ほど滞在してアパートの下見をしました。犬連れなので、大抵の人がするように、最初の数日をホテル住まいに する、ということが面倒だと思ったからです。

まず、CMUの周囲を車でうろうろし、家並みの雰囲気などを見て、大体この辺で探そう、と決心しました。
そして、その地域で空き部屋があるアパートを捜すために、電話帳から幾つかの 不動産屋を探し、そこに電話をかけ始めました。きっと 幾つか候補が見つかるかと思っていました。しかし、電話をすると

「Shadyside とか Squirrel Hillのエリアで2ベッドのアパートを捜している。
8月末から住むんだけど」

というと、8、9月は人の動く時期だけに、まずは

「色々あると思うよ、ちょっとまって」

という返事が返ってきます。しかし、次の瞬間に

「犬も住むんだけど。。。。」

とたんに

「そうか。。。。それじゃ、あなたの手助けはできないなあ」 といっておしまいです。幾つかの不動産屋に電話しましたが、やはり駄目そうです。 アメリカは、日本と違い ペットに対する扱いが良いと信じきっていましたので、意外な 展開です。これでは、ペットと共に住みにくい日本と 同じではありませんか。

この瞬間に、自転車で健康的に通う、という考えはあきらめざるを得ない状況に なったのでした。そして、別に入手したレンタルガイドという沢山の アパートが紹介されている冊子を見て、その中でペットOKと明記されているのを 探しました。10件ぐらいはありましたが、全てが遠い郊外です。 しかし、犬を連れてくるためには、多少の遠さもしょうがない、とあきらめ、
これらの中から、 CMUから東へ20KMほど行った、モンロービルというピッツバーグ の隣の市の3つのアパートを選び、
それらを見に出掛けました。この地域は、ピッツバーグ中心から遠いのですが、 最近新しく建ったようなアパートが多く、そのほとんどは、広い敷地内に プール、アスレチックジム等を装備していることを売りにしている、 日本でいうと、ちょっとしたリゾートマンションのような感じのもの です。結局、どうせ車で通うのであれば、10分も30分も変らない、と言い 聞かせて、この地域の、建って2年のいう比較的新しいアパートにする ことにしたのです。CMUからアパートまでは、ほとんどがハイウエイですので、 距離の割には早く、空いていれば20分ぐらいで行けます。まあ、電車に乗って 1時間半かけて通っていた八王子時代に比べれば、何と近いことでしょう か。

さて、家も決まり、実際に犬達とともにアメリカへやってくるのには、 まだ色々な困難があります。まず、飛行機問題です。座席に持ち込めるのか? 検疫は?等。飛行機会社に問い合わせたところ、前の座席の下に入る 入れ物にいれていれば座席まで持ち込めるとのこと。しかし、ミニチュアダックスフンドとはいえ、胴の長い犬ですから、そんな空間に押し込めるのは難しい。 そこで、チェックイン荷物と同様の扱いで、特別な場所に預けて運ぶ という手段にしました。電車に乗るのは慣れていて、新幹線で大阪まで 行ったこともある犬達ですが、飛行機は始めてで、しかも12時間以上 乗らなくてはなりません。そこで、あらかじめ大阪に遊びに行くときに 飛行機で行って練習しておきました。飛行機に預けて乗せるときは、 「もし何らかのトラブルで死んでも文句は言わないよ」という誓約書に サインさせられます。

行き先はピッツバーグですが、成田からの直行便はありません。普通は、 ニューヨーク、シカゴ、デトロイトあたりに行き、そこから国内線に 乗ることになります。そうすると、犬達が荷物の扱いを受けて犬ケ−ジ に閉じ込められている 時間が非常に長くなってしまいます。そこで、成田からの直行便 が飛んでいる、ピッツバーグに最も近い都市から車で行くことにすれば、
犬達を狭い犬ケージから早く開放できることになります。 そんなわけで、唯一、全日空のみが一便のみ直行便を飛ばしている、 ワシントンDCまでの直行便に乗り、そこから車で 移動することになりました。

さて、動物の輸出入に付き物の検疫問題ですが、成田を出るときに 狂犬病の予防接種などの証明を見せなければなりません。 空港第2ターミナルビルを歩いて歩いて端の端に、検疫のオフィスはありました。 そこまで行き、書類を見せ、許可をもらって、再度航空会社の カウンターに戻るのに1時間かかりました。あっというまに、 出発の時間が来てしまいました。見送りに来てくれた両親達 は待たせるだけ待たせて、あっという間に出掛ける時間です。 犬達は、同じケースに入り、スーツケースのベルトコンベアに乗って、 「お、俺達どこいくんだあ???」という表情を浮かべながら行ってしまいました。

ワシントンDCに着き、犬達が何処から出てくるのかと探しました。 奴等の犬ケージは、回るベルトコンベアとは別に出されて、 カートに乗せられて放置されていました。近づいていくと、喜びとも 不満(早く出せよ)ともつかない、甲高い声で鳴き叫び、周りの 旅行者達は「犬だあ」みたいなことを言っています。

成田から出る検疫手続きに比べれば、アメリカに入国の手続きは無いに等しく、 予防接種の証明書を一瞬見ただけで通してくれました。 ちなみに、日本に帰るときは、狂犬病が発病しないことを確認するために 2週間程成田に監禁される運命にあります。空港の建物から外に出て、14時間ぶりにケージから出た犬達は、晴れて、 アメリカの地に足を踏み出したのでした。そして、14時間分の大量の 放尿をアメリカの大地に向け放ったのであります。

ワシントンDCは12時過ぎに出ました。ピッツバーグまでは車で4,5時間の ドライブと聞いていました。住むことになっているアパートの管理人室は、 夕方5時に閉まってしまいます。それまでに着けなければ、ホテルかどこかに 行かねばなりません。そういうこともあって、ついアクセルを強めに 踏んでしまいます。そんな矢先、ハイウエイが左の方にカーブしているゆるやかな 下り坂を下りたところ、ちょうど側道からパトカーが同期するように発進 するのが見えました。運転している警官を目が会うと、 「おまえだあ」と言わんばかりにこちらを指差すでは ありませんか。路肩に車を停め、バックミラー越しに
警官がこちらに歩いてくるのを見ていることになってしまいました。下手に動くと撃たれるときいていたので大人しくハンドルを握り締めて待っています。「ちょっと速かったねえ。」と来て、頼んでもいない 黄色い切符をくれました。アメリカに来て、いきなりの 手荒い歓迎を受けるとは。。あとは安全運転を心がけて、 ピッツバーグへ急いだのでした。しくしく。
 

アパートのバルコニーからの眺め(左) アパートのバルコニーからの眺め(右)
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Author: Hideo Saito 
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